マウスガードの役割

  • 顔面に前方および側方から直接受ける外力から歯、 歯周組織(特に上顎前歯部)を保護する
  • 同様に外力による口唇、舌、頰の損傷 防止
  • 下顎に外力が加わったときに上顎との接触(衝撃性閉口)から歯、歯周組織、補綴物などを保護する
  • 外力からの顎関節の保護
  • スポーツ時の強度のクレンチングに対し直接的な歯の接触が避けられるので歯や歯周組織が保護できる、
    などの役割がある

マウスガードはドーピングになるか?

マウスガードはドーピングにならないかという質問が時々あります。たしかに、有名プロゴルフプレイヤーが「マウスピース(マウスガード)を着けてプレーしたので飛距離が出た」といって、失格になったことがありました。これを解説すると、筋力向上、飛距離アップの目的で使用した場合には、アンフェアということから失格となってしまったということです。ゴルフでは外傷は考えにくいと思いますが、強く嚙みしめたときには、歯に負担がかかります。その歪から歯を守るために使用する場合はあります。その時には、競技前に大会事務局に医療用目的であることを報告し許可を得られれば問題ないようです。 ゴルフ競技では、どんな薬物でも用具でも、パフォーマンス向上を目的とすると思われるものを使用した場合、ドーピングの対象となります。しかし、マウスガードは外傷予防が目的ですので、多くの競技ではドーピングの対象になっていません。最近は、マウスガードは、顎や口腔領域のケガや脳震盪の予防等、さらには歯による相手への傷害防止の安全面から義務化や、推奨されているスポーツが増えてきています。マウスガードの筋力向上効果に関しては、現在のところ個人や競技によって効果の違いがあるといわれています。しかし嚙み合わせが悪く100%の力を出し切れていない人には効果的なこともあります。心配な場合は、競技の種類や目的を含めてスポーツデンテイスト、歯科医師に相談してみましょう。

カスタムメイド(歯科医師が作る)スポーツ用マウスガードの利点

歯科医師法に準じて、歯科医師あるいは歯科衛生士あるいは作製希望者本人が型取りした歯型を基に作られ、装着時には歯科医師により正しい咬合や顎位に調整されていますので、既製の市販品に比べて確実なフィット感を得ることができます。
カスタムメイドマウスガードの作製に必要な診断、印象採得、咬合採得、咬合調整はすべて医行為に当たりますので、無資格者による型取りは違法です。その歯型により製作されたマウスガード(マウスピース)も違法となりますので、マウスガードの作製や装着に関しては、必ず歯科医師にご相談ください。

マウスガード(カスタムメイド)の作り方

 型どり(印象)

 模型製作

 シートを加工

 形態修正

 装着しながら調整

 正しい噛み合せを調整

 頬・舌側 及び 咬合面を調整し研磨 → 完成

市販品マウスガードの欠点

  • 確実なフィット感が得られず、競技中に外れ易い
  • 未調整であるために噛み合せが悪く、顎関節を痛めることがある
  • 額の固定が不安定であるため、ケガの要因となる場合がある

市販品ボイル&バイトタイプの不適切なマウスガード装着

マウスガードの使い方

  • 試合だけでなく、普段の練習のときから使って慣れて下さい。
  • ガムのように嚙んだりしないで下さい。
  • 使った後は、水でよく洗って下さい。市販のうがい薬を水で薄めたものに浸けておくのも良いです。
  • 使わないときは変形や紛失を防ぐため、プラスティックの容器に必ず入れて携帯、保存して下さい。また、汚れが気になるときは、きれいに洗って、自然に乾燥させて下さい。
  • マウスガードは、熱により変形(軟化)するので、お湯で洗ったり、洗濯後に間違って乾燥器に入れたりしないで下さい。また、夏場などには高温となる自動車の中、部室などに置きっぱなしにしないで下さい。
  • 大きな穴が開いたり、むし歯の治療などでマウスガードが合わなくなった場合には相談して下さい。
  • できれば年に一度は定期点検が必要です。
  • 練習・試合の後、特に、スポーツドリンクを飲んだ後には、うがいや歯磨きをして下さい。マウスガードの水洗いも忘れずにして下さい。
  • 何かマウスガードの異常に気づいたら相談して下さい。

マウスガードを使用しているスポーツとは

マウスガードの使用についてルールのある国内競技
マウスガードの色について制約・制限のある国内競技

女性アスリートのために

思春期歯肉炎と女性ホルモン・・・

思春期(12~17歳)に女性ホルモンの分泌が始まり、歯周病菌の中でも女性ホルモンを好んで繁殖する菌が活発に増殖します。また、女性ホルモンの増加により毛細血管が影響されて炎症が起こりやすくなります。月経前後は、ホルモンの影響で歯肉がムズムズしたり、腫れることがあります。

骨粗しょう症と歯科治療・・・

10代は、骨も生殖器も成長する大事な時期で、この時期に女性ホルモンの力で骨密度が上がります。無理なダイエットやハードなトレーニングが原因となり、身体が他の臓器を守るために生存に直接影響のない生殖機能をストップさせることがあります。女性が正常な月経を維持するためには、ある程度の脂肪量が必須であり、摂食障害は将来の骨粗しょう症のリスクを高めます。骨粗しょう症の治療薬は、抜歯や外科手術などの歯科治療に影響しますので、日ごろから十分な栄養管理を心がけましょう。

障がい者アスリートの歯科口腔ケアについて

障がい者スポーツは、従来の身体機能の維持、改善を目的としたリハビリテーションを主体としてのスポーツから、競技能力を競い合うという意味合いが強くなっています。特に障がいのある選手は、全身疾患を合わせ持つことが多く、歯科疾患が進行しやすい状態にあります。歯科疾患が原因で試合やトレーニングに集中できないことは、結果として障がいの悪化、ケガの発生などにつながり、パフォーマンスを低下させてしまう可能性があります。しかしながら、脳性麻痺(CP)サッカーチー厶に対して継続した歯科健診とカウンセリングをおこなった例では、大変良い効果が得られています。また、上肢の運動障がいのある選手には口腔清掃の不良が多くみられますので、健診を受けたり、歯磨き指導を受けたりすることが大切です。さらに、不随意な(無意識な)筋の緊張やブラキシズ厶(歯ぎしり)、あるいは強い嚙みしめが起こる選手は歯や顎の損傷に注意し、定期健診を受けるとともに、必要な場合はマウスガードを装着することがすすめられます。

障がい者スポーツでの事故防止

障がい者スポーツでは予期せぬ接触、転倒などによる口腔外傷のリスクが一般に比べて高く、障がいの種類によっては突然の筋の緊張による嚙みしめやくいしばりが発生し、それらが歯や歯周組織を傷めます。脳性麻痺サッカー選手の歯科サポートでは、接触や転倒、あるいは筋肉の過緊張による嚙みしめやくいしばりなどによる歯や顎の損傷を防止するためにマウスガードを提供し、高い効果を得ています。また知的発達障がいのある人の自立や社会参加を目的としておこなわれるスペシャルオリンピックスの競技であるフロアホッケーでは、マウスガードの装着が義務化されているため、歯科医師が製作した適合が良く、嚙み合わせも安定したカスタ厶メイドマウスガードの装着が望まれます。

睡眠時無呼吸によるスポーツ選手への影響

アスリートが高いパフォーマンスを維持・向上させるためには、「①適切なトレーニング」と「②バランスの良い食事」が必要ですが、欠かせないもう1つの要素として「③十分な休養」があげられます。たとえば、アメリカのメジャーリーガーやNFLの選手の中で、日中の眠気が強い人ほど数年後に所属チー厶から離脱する確率が高いというデータがあります。特にふだんから運動をおこなっているアスリートは、同世代の人たちにくらべて睡眠時間が長いことが知られています。また、この「十分な休養」を得るためには睡眠時間だけでなく「睡眠の質」が重要であるとされます。しかし、多くの選手がこの「睡眠の質」を軽視しているのが現状といえるでしょう。強い眠気を感じたままでトレーニングをおこなうことは、パフォーマンスの向上につながらないだけでなくケガの原因にもなります。睡眠障がいの原因として、「睡眠時無呼吸」(イビキのひどいもので、睡眠中にたびたび呼吸が止まってしまう)があります。ほとんどの場合は図1に示すように寝ている間に気道が塞がったり狭くなったりして起こり、深い眠りができなくなる病気です。


図1:睡眠時無呼吸の人はいろんな原因で気道が閉塞する



リスクが大きいタイプとして図2のように顎から首への角度が大きい人や、図3のようにのどの奥が狭い選手でのどの奥がつまりやすい傾向があります。日中の眠気や集中力の低下を感じたり、イビキがうるさいといわれる方は、専門医への受診をおすすめします。

図2: 右側ののように顎の角度が大きい人、
首が太い人、顎が小さい人ほど
睡眠時無呼吸に なりやすい


クラスⅠ
クラスⅡ
クラスⅢ
クラスIV

図3 : Mallampati分類:睡眠時無呼吸になりやすい咽喉の形状(クラスIVが一番リスクが高い)

アスリートの睡眠時間

♦1日の平均睡眠時間は8時間

JOC(日本オリンピック委員会)と味の素(株)の調査によると、アスリートの平均睡眠時間は8時間4分、東京のビジネスパーソン(サラリーマン、ウーマン)の睡眠時間は5時間59分でした。また、体調管理において「とても重要」なこととしている上位3つは、①しっかりと眠る84.5%②風邪などをひかない76.9%③早めに疲れをとる68.5%でした(複数回答)。睡眠が明日の活力であることは間違いないのですから、十分な睡眠がとれるように体も環境も整えておきましょう。

資料提供者(50音順)

石上 惠一 東京歯科大学特任教授・NPO法人日本マウスガード普及協会理事長
小川 勝 日本大学歯学部口腔外科非常勤講師、日本スケート連盟N級審査員
杉山 義祥 スポーツデンティスト協議会会長、日本スポーツ・健康づくり歯学協議会会長
武田 友孝 東京歯科大学 口腔健康科学講座 スポーツ歯学研究室教授
中島 理恵 日本大学薬学部 地域医療薬学研究室 専任講師
東原 慶和 IPU環太平洋大学スポーツ科学センター客員教授、スポーツデンティスト協議会専務理事
安井 利一 日本スポーツ歯科医学会理事長・明海大学学長

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