社会人野球のチー厶の選手です。自分では気がつきませんが、バッティングのときに喰いしばっているようです。最近、歯医者さんからかなり歯がすり減っているといわれました。昔のホームランバッターが、奥歯がボロボロになっていたとききましたが、喰いしばっていると本当にそうなるのでしょうか。

運動時の強い嚙みしめなどによって、歯がすリ減ったリ割れたりすることがあります。

「歯を喰いしばって頑張る」とか「歯を喰いしばって我慢する」という言葉をよくききます。スポーツ選手に限らず、強い力を発揮しなければならない場面や瞬発力を必要とするシーンなどでは、無意識のうちに強い嚙みしめが起こる場合があります。過去の研究では、全力で背筋力を発揮するときに約65%の人が無意識に嚙みしめていたという報告があります。当然の話ですが、強い嚙みしめを長期間、高頻度にわたって続けていると歯のすり減る量も増えていき、嚙み合わせが悪くなったり、痛みがでたりする原因となります。このような歯のすり減りによるさまざまな障害を予防するためにもマウスガードの装着が推奨されています

アイスホッケーをやっていますが、試合でも練習でもイオン飲料をいつも飲んでいます。先輩に、「いつもそればかり飲んでいるとむし歯になるぞ」といわれました。甘いからよくないのですか?あまり甘くないものだったらいいのでしょうか。

スポーツドリンクには糖分が少なからず含まれていて、飲み方によってはむし歯を作ってしまったリ、歯をもろくしたりしてしまうからです。

多くのスポーツドリンクの中には、汗で失われる水分や電解質の他に力ロリーの補給も兼ねて、砂糖をはじめとする糖類が入っています。砂糖はむし歯菌が酸を作りやすい物質です。スポーツドリンクを飲むたびに、むし歯菌は酸を出し、歯を溶かしてしまいます。そのためむし歯になったり、歯がもろくなってしまったりします。競技中、スポーツドリンクを飲むたびに歯を磨くことは不可能なので、スポーツドリンクを飲んだあとに、水を飲んで自然に口を洗ったり、水でぶくぶくうがいをしたりするような習慣をつけることが必要です。また、スポーツドリンクは、だらだら飲まず、一気に飲むことも必要です。

大リーグの選手などはガムを嚙んでいる人がいますが、パフォーマンスにいい影響があるのでしようか。自分はテニスをやっていて、いつも練習の行き帰りにガ厶を嚙んでいます。先日、ガ厶を忘れたら、どうも調子がよくありませんでした。やはりガ厶はよいのでしようか。

ガムにはリラックス効果と集中力を高める効果かあリ、バランス能力や敏捷性の向上も期待できます。プラスの面が多いかと思います。

ガ厶は嗜好品として気分をリラックスさせたり、眠気を覚ましたりすることができると考えられています。さらに、ガ厶を嚙むことで脳への血流がよくなるため集中力を高めるという効果も期待されています。スポーツ選手は、刻々と変わる試合状況の中で、集中力も冷静な判断力も必要です。また極度の緊張があるときに、そのストレスを和らげ、機敏に筋肉を動かすことができる体の状況を準備しておくことが、安全性、競技成績を左右します。嚙むことは食べるための働きだけではなく、全身機能へも大きな影響を及ぼしているのです。

ラグビーの試合で唇をケガして血が出たときに、ルールで血が止まるまで試合に出られませんでした。治療のためだけでなく病気の感染を防止するためとききましたが、どんな病気の危険性があるのでしょうか。ただ、ボクシングなどは少し血が流れていても試合を続行していますが…。

スポーツでまず問題となる感染症は血液を介するもので、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどが挙げられます。このため多くの種目では止血後にプレーが再開となります。ボクシングも同様です。

競技スポーツ、学校スポーツの現場ではさまざまな病原体が感染症を起こします。代表的な感染経路と病気を挙げると、血液感染ではB型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全症(HIV)。接触感染ではノロ、麻疹など。飛沫感染ではインフルエンザ、流行性耳下腺炎など。空気感染では結核、水痘、麻疹の3つがあり、経口感染ではA型肝炎、ポリオ(急性灰白髄炎)、腸チフスなどがあります。マウスガードをすることにより、これらのうち血液感染は軽減できると思われます。

相撲部の先輩が、いびきの治療で口の中に入れる装置を歯科医院で作ってもらって、いびきがおさまっているといっていました。歯科医院に行って装置をすぐに作ってもらえるのですか。

いびきや睡眠時無呼吸は、歯科医院で提供される「スリープスプリント」と呼ばれる特別なマウスピースを使って改善できます。

いびきは「いびき症」という症状の名前で、病名ではありません。いびきがあること自体は身体への悪影響がほとんどないため病名が付かず、当然ながら治療の対象にもなりません。しかし、いびき症が重症化すると睡眠中に気道が塞がり、呼吸が停止することがあります。これを「閉塞性睡眠時無呼吸」と呼びますが、これは治療の対象になります。主な自覚症状として、日中の強い眠気や集中力の低下などが挙げられ、また周囲の人にいびきがうるさいと指摘されて気付くケースもあります。歯科医院でスリープスプリントを作ってもらうには、専門の医療機関(耳鼻科や呼吸器科など)で精密検査を受ける必要があります。検査結果から閉塞性睡眠時無呼吸の治療にスリープスプリントが有効であると判断された場合のみ、歯科医院宛に診療が依頼されます。歯科医師はその依頼に従ってスリープスプリントを作成することになります。

※睡眠時無呼吸症候群の歯科的な治療器具

アイススケートのフィギュアをやっていますが、メダルをとる選手は歯ならびや歯の噓み合わせがよいとききました。逆に、むし歯や歯がない状態を放置して、歯ならびが悪い状態のままだと、平衡感覚が悪くなってパフォーマンスにも影響するというのは、本当でしょうか。

実験的にも歯の嚙み合わせがよい状態に比ベ、悪い状態ではパランス機能が低下し、体の安定性が悪くなリます。

また、嘘み合わせをよくすると平衡機能がよくなり、転倒防止にもつながるといわれています。人の下顎の骨は唯一、左右2つの関節をもって、頭蓋骨に筋、靱帯などを介して吊られている状態です。そのため、顎の関節や筋肉の異常により下顎の位置は容易に変化します。また、重い頭は不安定な脊柱の最上部に位置しているため、 物理的にさまざまな影響を受けやすく、下顎の位置変化が頭の位置に影響します。これが、スポーツ時の姿勢として多い立位時の平衡機能へ影響するものと考えられます。嚙み合わせがずれていると、顎の関節だけではなく、姿勢を保つ頸椎、脊椎、股関節や全身の骨格や筋肉のバランスも悪くなり、平衡機能が悪くなると考えられます

テレビで大学の先生が、80歳で20本以上の歯が残っている人が増えていて、これから平均寿命もまだ伸びそうだ、特に歳をとってもスポーツをする人は、しっかり嚙めて健康寿命が長くなるといっていました。スポーツを続けることが長生きと関係があるのでしようか?

そのような傾向が認められます。歯の健康に気をつけて、ウォーキングなど軽い運動を日常生活に取り入れてはいかがでしようか。

運動をする習慣のある人とない人では、運動習慣のある人のほうが自分の歯が多く残っているということがわかっています。さらに歯がない人は歯がある人に比べ1.1〜2.7倍死亡のリスクが高くなることもわかっています。残っている歯の本数や歯周病などの口の病気と体の健康とは関係ないと思われがちですが、大いに関係があります。たとえば、残っている歯の数と寿命の関係や、認知症との関係、メタボリックシンドロ一厶と歯周病の関係などがわかっています。継続的に自分の歯や歯肉をケアして、自分の歯でしつかりと嚙むことは生涯健康で生きるためにとても大切です。

ハンドボールをやっていて、ネット通販で買ったマウスピースを着けています。先輩は歯科医院で作ったものでマウスガードと呼んでいますが、さわってみると弾力性があって品質がよいもののようです。マウスガードはランクが上で、マウスピースとは材料も作り方も違うのですか?

スポーツ用の主に歯を外相から守るやわらかいプラスティックでできた装置を、マウスピース、 マウスガードと呼びます。どちらも同じものです

マウスピースという呼び方は、19世紀末にイギリスのボクシング選手が使用したゴ厶製の小片のことが始まりとされています。現在でも、ボクシングではマウスピースということが多く、ラクロスでも同様です。しかし、アメリカンフットボールやラグビーなどではマウスガードと呼ばれることが多いようです。この装置は、スポーツやトレーニング時に口腔内粘膜、歯、顎をケガから守り、また、ケガを予防するための装置のことをいいます。最近では脳震盪の予防・軽減効果も期待されています。

カスタムメイド(個人別作製)のマウスガード シングルレイヤー(単層)と
マルチレイヤー(ラミネート;複層)があります

前のオリンピックで、メダルを取ったレスリングの選手や重量上げの選手がマウスガードを着けているのを見ましたが、マウスガードを着けるとパワーアップするのでしようか?

質問のパワーアップはスポーツにおける運動能力の向上を意味しているものと思われます。その意味では、マウスガードを着けることだけで、パワーアップすることはありません。

マウスガードを着けることにより、外傷に関する不安を取り除き、選手が本来持っている能力を安全に十分に発揮できるようになると思います。また、嚙みしめることは強い筋活動を発揮するといわれており、競技中の状況に応じ、嘘みしめることがよいこともあります。マウスガードが、選手の運動能力を増強させるかどうかについては、多くの研究がありますが未だ結論は出ていません。しかし、運動時に正しいマウスガードをしている状態で嚙みしめることが、顎や頸部の筋の活動を高め安全性に寄与しているとする報告はあります。

だいぶ前に、プロゴルフの選手でマウスガードを着けて失格になっていたいうことを聞きましたが、本当でしょうか。それはドーピングになるのでしょうか?

通常のスポーツ競技では、マスガード装着はドーピングにはなりません。しかし、ご指摘の選手はマウスガードを使用すると飛距離が伸びると公言して使用したためルール違反と判断され失格になりました。

ドーピングとは、スポーツの競技で運動能力を向上させるために、薬物を使用したり物理的方法を用いたりすることです。マウスガードは口腔内の傷害予防を主な目的にしています。しかし、質問にあるようにプロゴルフ選手が2012年にマウスガードの不正使用ということで失格になったケースがあります。これは、通常使用することが認められていない、あるいは見られない装置を使用する場合、事前に大会運営委員会に医者からの医療情報、使用する器具を提出することで使用許可が得られれば可能になります。もちろん、使用可能かどうかは委員会の判断になります。いずれにしても、このケースでは、使用すると飛距離が伸びると発言したことがドーピングにつながったものと思われます。

高校生ですが、レスリングをやっています。スポーツ用品店で買って、お湯で温めて口の中で押し付けて合うようにするマウスピースを使っています。奧のほうが少しゆるくて、嚙んでいないときはときどき落ちてきます。危険性があるというのは、それが原因で歯や口の中を傷めることがあるということでしようか?

お湯で温めて口の中で押し付けて合うようにするものは、歯ならびに合わせることが難しいため外れやすく、嚙み合わせの調節ができないから問題が発生しやすいのです。

スポーツ用品店で購入したマウスピースは、歯科医院で製作してもらうものと違い、個人の歯ならびに合わせて作られたものではありません。そのため、口を開けたときに外れ落ちたり、発音が難しくなったりします。また、市販のものでは嚙み合わせの調整ができません。正しい嚙み合わせでないと、顎や筋肉に痛みが出ることがあります。さらにそのような嚙み合わせの悪いマウスガードを装着している際に、顎や顔に衝撃を受けると、顎の骨の骨折などの危険性が増します。

ラグビーはぶつかって脳震盪を起こす割合が他のスポーツよりより多いそうですが、最近は水をかけて意識をとりもどしプレーに復帰させるという光景が見られなくなりました。安全対策がよい状況になって、脳震盪は少なくなったのでしょうか。マウスガードは歯を守るだけでなく、脳震盪予防に役立つともききましたが、本当でしょうか?

マウスガードには、歯を守るだけでなく、頭頸部の筋の活動性の向上による効果で、脳震盪を予防・軽減する効果が期待されています。

脳震盪は頭部を直接打撲することによって起こるものと、頭部以外の顎の先や胴体などに加わった間接的な外力によって起こるものがあるとされています。このうち、主に間接的な外力による脳震盪は、衝撃時の頭頸部筋の十分な活動によって予防・軽減できる可能性があると考えられます。危険を察知した際、正しいマウスガードをしっかりと嚙みしめることは、頭部に加わる衝撃を軽減し、脳震盪予防に役立つ可能性があります。ボクシング、ラグビー、アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツだけでなく、頭部に衝撃が加わる可能性が高いサッカー、スノーボードなどのスポーツ競技中においても、マウスガードの使用が必要と考えられます。

7歳の子どもが近くの子どもラグビースクールに入って、マウスガードを作りました。子どものラグビーの試合ではマウスガードが義務化されているそうですが、他のスポーツでも子ども、大人のスポーツで義務化されているものがあるのか教えて下さい。

ラグビーの他にもアメリカンフットボールやボクシングなど激しいコンタクト(接触)が発生するスポーツでは義務化されているスポーツが多くあります。

ラグビーでは、中学生、高校生が試合においてマウスガードが義務化となっています。小学5、 6年生に対しては、推奨となっています。年齢で着用が決められている競技や、色の指定があるものもありますので、マウスガード作製時は気をつけてください。

大学のアイスホッケーの部活で初めてマウスガードを作りました。私はまだ大会に出るようなことはないのですが、1シーズンで10回くらい着けました。レギュラーの人は練習と試合で着けていて、半年に1回くらい作り替えているといっていました。人によってずいぶんマウスガードの持ちが違うようですが、保管のしかたによっては1年以上は持ちますか?

一般的には約6力月から1年以内の交換をすすめています。

アイスホッケーやボクシングなど競技によってはマウスガードが着用義務化されているスポーツがあり、練習試合などで每回使うものなので2つ以上持っている選手も多くいます。また、マウスガードの素材は温度、力、水分などで硬くなったり変形することがわかっています。高温となるところや温度の高い場所に置かないようにしましょう。強い嚙みしめや使用後の清掃などで少しずつ変形、破損していきマウスガードが口の中ですぐに外れてしまうことや、着けていることによって痛みがでてしまう場合があります。歯科医による定期的なメンテナンスで歯の状態やマウスガードの状態を確認してもらうことが大切です。

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